社会人になって学び直す意義とは?元エンジニアが「数学徒」に戻った理由

「今更だけど、もう一度大学に行って学び直したいなぁ…」なんて後悔を抱えている社会人の方も多いんじゃないでしょうか?

ただ、それを実行に移すには金銭的な問題やモチベーション維持の問題など、沢山のハードルを乗り越えなければなりません。

そこで今回は、9年間ソフトウェアエンジニアとして社会人を経験してから、31歳で会社を辞めて大学院に入り直した「数学徒」佐野岳人さんにお話を伺いました。

「学び直し」という選択をしたきっかけや「学び直し」を考える社会人へのアドバイスなどもお話ししてくれているので、社会人として今一度真剣に学問に向き合ってみたいと考えている方は是非参考にしてみてくださいね!

目次

学び直しのきっかけは「プログラマー向けの数学勉強会」

佐野岳人(35歳) 東京大学大学院 数理科学研究科 博士課程1年、トポロジー専門。

ーー佐野さんがもう一度数学を学び直したいと思うようになったきっかけは何ですか?

僕は大学では数学を専攻していて、学部を卒業した後は大学院には進学せずに就職をして、9年間ソフトウェアエンジニアとして働いていました。

大学を卒業した頃は数学に挫折してしまっていたので、仕事は数学から離れようと決めていました。

実際に仕事で数学を使う機会はほとんどなかったですし、そのことに不満も感じていませんでした。

30歳になる頃には結婚して子供も産まれ、キャリアもある程度安定したこともあり、「やっぱり数学をもう一度やりたいなぁ…」という思いが芽生えていました。

ただ、数学の勉強はかなりの時間を必要としますし、エンジニアとして働きながら数学の勉強をするのは相応のモチベーションがないと続きません。

そこで、自分の中で「数学を勉強するモチベーション」を作るために、「プログラマのための数学勉強会」を開くことにしました。

当時は機械学習も盛り上がりを見せていて、プログラマたちの中で数学への関心と課題意識が高まっていることが感じられました。

勉強会の開催はエンジニアとしてもやってきたことですし、周りからも「ぜひやって欲しい」という声があったので、会社の会議室を借りて2015年1月に「プログラマのための数学勉強会」を開催しました。

勉強会は思った以上に盛況で、毎回定員を超えるほどの参加申し込みがありました。

それはもちろん嬉しいことだったのですが、回を重ねるごとに「やっぱりちゃんと時間をかけて数学を学び直したい」という気持ちが高まっていきいました。

でも、いざ家で数学書を読もうとしてみても一日でたった数行しか進まなかったりして、大学の頃にやっていたような勉強法は仕事や家庭との両立の中では無理だ、と絶望しました。

一ヶ月ほど深く悩みましたが、やはり数学を学び直すために大学院に入るしかない、と考えるに至り、その年の6月から本格的に勉強を始め、9月に大学院の入学試験を受けて合格しました。

ーー30歳で大学院に入るのはかなり勇気のいる決断だったと思いますが?

そうですね、この決断については感情に任せすぎてしまったな、と反省しています。

元々蓋をしてしまっていた数学への想いみたいなものが、勉強会を通じて一気に解放されてしまって…。

もう「数学をやり直すんだ―!」の一点張りだったように思います。

家庭でも子供が生まれて1年も経っていない頃でしたし、妻にはかなりの迷惑をかけてしまいました。

ーーやはり社会人が学び直しを考えるうえで「家庭」の問題は避けては通れませんよね?

はい、仕事も家庭も学業もどれひとつとっても楽ではないので、どうバランスを取ってやっていくかは切実な問題です。

自分自身は思い切って飛び込んでしまいましたが、この「思い切りの良さ」はあまり真似してほしくありません。

経済的な問題もあると思いますし、ちゃんと計画性を持ってやらないとすぐに破綻してしまいます。

僕の場合は突発的な決断でしたが、ギリギリのところでなんとか上手くやってこれました。

会社員の頃に比べて僕の子育てや家事へのコミットメントが増えたこともあって、修士課程を修了する頃には妻も「結果的には良かった」と言ってくれました。

妻もいずれ学び直しをしたいと考えているようなので、そのときは僕がサポートする側に回りたいと思います。

研究者の発信の場としてのクラウドファンディング

ーー佐野さん自身は学術系クラウドファンディングサイト「academist」でクラウドファンディングをやられていますよね?

はい、「コンピュータを駆使して低次元トポロジーの謎に迫る!」というタイトルでファンクラブ(月額制のクラウドファンディング)を開いています。

修士課程の三年間は無収入で、貯金と妻の収入で生活をしていたんですけど、博士課程に進学する上でもう3年間無収入というのは家計的に厳しく、どうしようかと悩んでいました。

そんなときに Twitter でフォロワーの方に「こういうサービスがあるよ」と教えてもらって academist のことを知りました。

academist では、研究者や学生がクラウドファンディングという形で一般の方から研究資金を募集しています。僕のファンクラブには現在は70人を超えるサポーターがいます。

ファンクラブを始めてよかったのは、金銭的なサポートが得られることに加えて、自分がやっている研究内容をサポーターに共有し、それを応援してもらえることです。

せっかく面白い研究をしていても、経済的に苦しんでいたり研究内容を世に発信する機会に恵まれない研究者も数多くいると思います。

そういった研究者たちを支える新しい場として、学術系クラウドファンディングにはとても希望を感じています。

ーーディープラーニングなどの流行によって数学に興味を持ち始める一般の人も増えてきたことも影響していますか?

機械学習を通して数学に興味を持った人は多いと思いますが、もともと数学が好きだったという人も多くいます。

僕のファンクラブに関しては、家庭と研究を両立しようとしているところや、一般向けにも数学の面白さを伝えようとしている活動を応援してくれているのかなと思っています。

とてもありがたいです。

学び直しを考える社会人はどうすべきなのか?

ーー実際に「学び直し」をされている佐野さんが「学び直し」を考える社会人にアドバイスするなら?

アドバイス、というのは中々難しいですね…。

景気良く「やりたいことをやれ!」と言いたいところですが、無責任なことを言って人の人生を狂わせたくありません。

でもそうなると保守的なアドバイスしかできなくなるんですよね、自分の取ってきた選択は全然保守的じゃないのに(笑)

言えることは、僕のように「フルタイムで学生をやる」というのは一つの極端な形で、それがやれるのは家族の理解やある程度の金銭的な蓄えがあるからです。

一口に「学び直し」といっても、「働きながら週1日だけ勉強にあてる」から「フルタイムで学生をやる」まで幅広いグラデーションがあります。そのグラデーションの中で自分はどこに立つことができるのかを、色々な事例を参考にしながら考えて欲しいです。

僕はいま「学び直し」ができて幸せなので、他の人も幸せになって欲しいです。行動に移すのは何年も先になるかも知れないけど、自分に合う形を見つけて欲しいです。

ーー特に数学を学び直したい、と思っている方へのアドバイスはありますか?

「数学が分からない」と感じるとき、「どのレベルで分からないのか」を分析することは大事だと思います。

式がそもそも読めないのか、式は読めるけどその「気持ち」が分からないのか…。

でも「何が分からないのか」が正確に分かるなら、それはかなり数学が「分かっている」ことになります。だから一緒に学べる仲間がいることが大切です。

すうがくぶんか」さんは社会人向けの数学教室を開いていますし、「日曜数学会」「数学カフェ」「数学デー」など一般向けの数学イベントも最近は色々とあります。

そういう場に顔を出して、よく分かっている人からアドバイスを受けたり、一緒に数学を学べる仲間を見つけられたりすると、勉強も楽しく実り多いものになってくるんじゃないかと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

「分からないことが何なのかを分かるようにする」というのは、数学だけでなく人生そのものにも通ずるところのあるアドバイスでした。

是非、学び直しに意欲的な社会人の皆さんは佐野さんのお話を参考にしながら、自分に合ったグラデーションの学び直しスタイルを模索してみてくださいね!

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