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「いつか世界に通用するような研究組織を作りたい。」数学者渡邊陽介が目指すR&D組織の形について

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日本の高校を卒業後、単身アメリカに渡り、数学を学んだ渡邊陽介氏。アメリカの大学で数学を教えた後、帰国した彼は現在、複数の企業でAI開発研究やアドバイザリー等で活躍している。

彼が語る「いつか世界に通用するような研究組織を作りたい。」という言葉の根底には、日本の研究組織を活性化させたいという思いがあるという。今回は数学者としてのキャリアから人工知能(AI)領域へ活躍の場を移された、渡邊陽介氏に日本のAI業界についてお話を伺った。

18歳で渡米。最初は投資銀行に入ろうと思っていた

【渡邊 陽介(わたなべようすけ)】日本の高校を卒業後、単身渡米。アメリカで学生と大学教員として数学をし、現在は複数の企業でのAI開発研究やアドバイザリー等、また大学で訪問研究員としても活動する。

ーー渡邊さんは18歳でアメリカへ留学をされています。この決断をするにはかなりの覚悟があったのではないでしょうか?

正直なところ、リスク自体なかったんですよね。当時私は18歳でしたし、失うものがそもそもなかったので。

ある程度年齢を重ねてしまうと家族がいたり、仕事があったりとなかなか決断しにくいですが、当時の私は両方ともなかったので。

ーー大学時代は主に何を学んでいたのですか?

もともとは、経済学部に入って、投資銀行で働いてみようかなと思っていたんですよ。

ですが、大学時代に転機がありました。それは私が20歳くらいの時で、当時在籍していたUCLAにテレンス・タオという先生がいまして、彼のパブリックレクチャーに出てみたら全く違う世界が広がっていたんです。テレンス・タオ先生は著名な数学者で、30歳そこそこでフィールズ賞を受賞するような方だったのですが、その講義を受けてから、数学への興味が湧いてきました。

もし、この講義がなかったら私は投資銀行に進んでいたと思います。ただ、私が大学を卒業する頃にリーマン・ショックが起きてしまったので、そのまま進んでいたらどうなっていたか…。そういう意味でもテレンス・タオ先生には感謝ですね(笑)

ーーその後は数学者としてのキャリアを進められた渡邊さんですが、どのような研究を行っていたのですか?

私が研究していたのはトポロジーという分野で、一言で言うと形を解析する学問です。例えば、データサイエンスの文脈で言うと、データは常に数値化された状態で扱います。画像であればピクセルになおして数値化する様に。数値化されたデータはある次元の点と考えることができるので、それらを遠くから見たときにそのデータがどのような形をしているのか、それが四角なのか丸なのか。それを考えるのが、トポロジーという学問です。

実際にビジネスの現場で使われている例をあげると、SNS系のサイトで出会っていない2人がいるとします。その人たちは会うべきポテンシャルを秘めているのですが、両方ともSNS上にいることを知らないとします。彼らを引き合わせるようなレコメンドをするとき、まずSNS上にいる人たちのつながりをグラフにおこし、人々のつながりを可視化します。可視化することである特定のグループにはこういうつながりがあるだとか、こういうつながりがある人たちには一定の条件があるとか。

そうやって2人を引き合わせるためのレコメンドを考えていきます。この際に用いられるのが、トポロジーを使ったSNSのネットワークの形の理解と、その形の上での離散数学の技術になります。

ーー渡邊さんがAI(人工知能)に出会い、興味を持つようになったきっかけは何でしたか?

AIとの出会いは、2014年あたりです。当時私はブラウン大学で研究をしていまして、ちょうどそのころにブラウン大でデータサイエンスをやり始めたんです。

そこでデータサイエンスに興味を持ち取り組むようになりました。ただ、その時は比率で言うと数学が7でAIが3くらいの割合でしたが。

ーーその辺りだとデータサイエンスが世界的に流行してくるタイミングですね。

そうですね。今では日本の大学でもデータサイエンスを学べる学部学科が増えていますが、その頃くらいからアメリカでもデータサイエンスを学問としてやろうとするところが増えてきました。

--その後、渡邊さんは数学の世界から人工知能の世界へ活躍の場を移します。この変化について、どのように考えていますか?

実は、大学院生の頃に書いた論文をarXivと呼ばれる、オープンソースに投稿した際にある研究者に間違いがあると指摘されて。結局間違えた部分をそのとき解明できず、その部分を取ってジャーナルに投稿し、採択されたんですが。ただ私の中で間違った箇所がずっとトラウマになっていたんですね。ふとあるとき、その間違いがパッと解けたんです。本当に簡単に解けてしまって。

そのときに私は自分の数学者としての才能に陰りが見えてしまったように感じてしまったんです。今までは戦略的に、緻密に論理構造を作って解いてきた問題が、カフェで何気なく過ごしていた時間にフッと解けてしまって。

それまでのキャリアでは自分なりにですが戦略的に問題にアプローチしていたので、この時は訳も分からず解けてしまった事が気持ち悪かったんです。次に解く問題はどうアプローチするべきか、自分を信じられなくなってしまいました。結局その感覚が決定打でした。

ーー数学者という道を断念することはかなり難しい決断だったのではないでしょうか。

数学をすぐに断念するという決心は、なかなか出来なかったですね。私自身、数学が大好きだったので。ただ、自分で数学を辞めるという結論を出せたのはよかったと思っています。他の人に言われるのではなく、自分の意思で、理由もつけて次のステップに行けたので。

次の舞台はAI(人工知能)への学術的アプローチ

ーー現在はAIを推進している企業も増えてきました。アメリカで長年過ごされてきた渡邊さんからみて日本のAI業界をどのように考えていますか?

科学も技術もそれ自身が世界共通語だと思うんですね。日本に生まれようが、アメリカに生まれようが関係ない。ただ、科学技術の進歩は社会のトレンドに依存するところが大きくて、ゴールドラッシュみたいに、ただ儲かるから人が入ってきて、なんでもAIで解決できますよねっていう今の様な状況はサイエンスの観点では危険ですし、ビジネスにおいても長続きしないと思います。それじゃ国力は上がっていかないんじゃないかなと。そういう意味で、長い期間で物事を見れる人が少ないのでは、と思います。

ーー日本全体での傾向として、長期視点で見たり、本質をとらえる部分がまだ弱いかもしれませんね。

とはいえ、「深み」のある企業、いわば、DNA がちゃんと存在している企業は強いと思います。例えば、サービス名とか見せ方ってとても大事ですけど、これは本質的な部分ではありませんよね。そういう部分ではなくて、「絶対真似できない部分(=コア)」がある会社は強いです。そういう深みのあるものが世界でも流行っていくんじゃないかと思いますね。

というのは、コアの部分が深まっていないと簡単に真似されてしまいますよね。真似の争いになれば、資金力があるところが勝ってしまいますよね。どれだけ資金を積まれても負けない、コアの部分がある。企業はそのようなDNAを自分たちに問い続けることが大切だと思います。

例えば、インスタグラムもスナップチャットの機能を一時期全部参考にしていました。しかしながらスナップチャットにはコミュニティー哲学でのオリジナルのDNAがあって、今でも熱狂的スナップチャットファンは世界には多いです。

ーー人工知能の世界に活躍の場を移された渡邊さんは、今後、どのような活動をしたいと考えていますか?

私のビジョンとしては将来的に世界に通用するような研究組織を作りたいと考えています。例えば、研究員が10人いれば、トップカンファレンスに年間最低でも20本くらい通るような。そんな組織を日本で作りたいですね。

研究所にはビジネスへのアプローチを研究するストリームと、そうでないストリームがあると思います。R&D(Research & Development)の一つの形として、Developmentを極めようと思えば自然とResearchにたどり着く形があると思っています。

例えば、ある会社のニーズとデータに特化したアルゴリズムを求める時、汎用的に使われているモデルを改良する必要がある、またはゼロから作る必要がある。どこかである技術を使うだけでなく、新しい技術を作る必要がある。ここでリサーチが入ってくる訳です。Researchとdevelopmentは別のものではなく、それぞれ一体なので、シナジーを産み出す組織が強いでしょう。ただ、researchだと論文査読は世界の土壌で勝負するわけで、本物の研究組織は研究で生きてきた人しか作れないでしょうね。アメリカの大手テック企業なんかは有名な研究者がリードしています。Researchの世界は本当に厳しい。その厳しさを理解せず運営し、例えば研究経験や業績のない方達が中途半端にやって失敗するケースは日本企業には多い。私自身も帰国後そういった状況を見てきました。仮に形と名はあってもプロが見たら質は一目瞭然でしょう。

とはいえそういった状況を嘆いていてもしょうがないので、ちゃんとした研究組織を、今後、独立し自分が1から作りたいって思うんです。最先端の研究開発をしてきた方達からもリスペクトが得られる様な本物の研究組織。微力な自分が何年かかるかわからないですが。

ーーDevelopmentのためのResearchだと。

これって数学と似ているんですよね。数学もやりたいこと、知りたいことを具現化するために定義を使う。データ活用でも同じです。ただ、そもそも課題が具現化できていないっていうことが多いですね。

「データはあるけど、どう使う?」ではなく、課題があって、それを解決するために、データを結びつける作業がどこでも必要だと思います。データサイエンスはあくまでその手法に過ぎないので。地道な活動なんですけどね。愚直にdevelopmentとresearchを続けて得意な形ができてくる。積み重ねるしかないと思っています。科学にも技術にも近道も裏道もないですから。 

AIによって生み出される「新しい仕事」にどう取り組むか

“ーーAIが人の仕事を奪うーー”

確かに、AIはこれまで築き上げてきた仕事を奪う一面もある。しかしその一方で、AIによって生み出される仕事も多くあるのだ。

AIに使われるのか、それともAIを使うのか。その決断に迫られるのは「今」かもしれない。