「労働を強いる国という”レガシーシステム”を壊す。」 MatrixFlowが目指す社会の姿とは

「労働を強いる国という”レガシーシステム”を壊す」。そう語るのはエンジニアでなくても操作できるデータ分析ツール「MatrixFlow」の生みの親、tdual氏。彼がこう述べる背景には、AIの民主化の実態があったという。

今回はtdual氏本人に、MatrixFlowの開発秘話やAIの未来についてお話を伺った。

目次

AIの民主化に共感。しかし、実際はエンジニアしかAIを使えない。

【tdual(ティーデュアル)】大学・大学院で理論物理学を研究。新卒でWebエンジニアとしてベンチャー企業に入社。その後独学でデータサイエンスと機械学習を学び、AI系ベンチャーに転職。機械学習エンジニア/データサイエンティストとしてR&Dと機械学習アルゴリズムの開発に従事。2018年5月からMatrixFlowの開発を開始し、同年10月に株式会社MatrixFlowを創業。

ーーMatrixFlowの開発経緯を教えてください。

そうですね。今から数年前にGoogleがAIの民主化を打ち出して、僕はこれにすごく共感したんです。でも、蓋を開けてみればAIを扱えるのは結局エンジニアだけで。コーディングできないと使えない、APIを叩けないと使えない。

これって本当の民主化なんだろうかっていう思いがあって。でもこれってみんなも同じことを考えているだろうから、そのうちそういうエンジニアじゃない人でも使えるツールがすぐに出てくると思ったんです。

しかし、実際は1年待っても出てこなくて。それなら僕がと思って作ったのが、MatrixFlowなんです。

ーー実際に触ってみると直感的な動作が多く、簡単に使いこなせる印象です。

そうですね。MatrixFlowはビジネスマンでもダイレクトにAIの構築ができるように作っています。

ーー実際にAI開発をされていますが、現場における問題は何ですか?

AIの開発をしていくとどうしてもコミュニケーションコストが高くなってしまいます。お互いの共通認識のすり合わせとか。そこに時間をかけるのは正直あまり意味がないと思っていて、それよりも開発だったりデータ分析っていう方に時間をかけた方が良いと思いっています。

一番早いのってドメイン知識を持った人たちが実際にデータ分析ができるようになることなんですよ。そういう意味を込めてMatrixFlowを作りましたね。

ーー実際にAI化に失敗する企業も多いです。

AI開発のノウハウはまだ世の中に定まっていないので、そもそも失敗するのが当たり前かもしれません。僕が思うに、失敗してやめるから「それが失敗」なのであって、トライし続ければ成功すると思っています。さらにいうと、「失敗するもの」と思ってスケジュールを組むことも大切だと思いますね。

なので、どちらかといえば社内とか対外的にこのプロジェクトは意味があるんだってことを言い続けることが必要だと思います。言ってしまえば「社内政治」的な側面ですね。後はひたすら試行錯誤を繰り返すしかないです。

ーー他にも作ったモデルを実投入して使い続けると性能が劣化するという問題もあります。

まだあんまり問題になっていないですが、今後はあちこちで問題になるんじゃないかなと思います。機械学習モデルはデータに大きく依存しているので、データの傾向が学習時と変わると予測が全く当たらなくなる場合もあります。ちょっとトレンドが変わるとついていけない…、なんてこともでてくると思います。

ーーまた学習データ作り直して、また学習させて…。その度に再発注するとなるといくらお金があっても足りないですね。

MatrixFlowは最新のデータさえあれば、それを防ぐことができます。そもそも、私の考えとしてAIは内製化すべきだと思っているのでそのためのプラットフォームがMatrixFlowです。

イメージとしてはエクセルを使える人が使えるくらいまで簡単で身近なツールにしていきたいですね。

ーーここからはTdualさんご自身についてお話をお聞きします。研究畑から一転、ウェブ業界に行った理由は何ですか?

そのとき私が研究していた内容は、あるものの発見によって死んでしまったというか、理論的にありえないことになってしまったんです。そのとき自分のこれまでを振り返ってみて、この先これを続けるかって悩んでしまって…。

社会に関わることをしたいとはずっと思っていたので、まず初めにアプリ開発を初めてみて、そこからプログラミングに興味を持ち、ウェブ系の会社に就職しました。その後、AI系の会社に転職したときがちょうどディープラーニングが流行していて、興味を持って…という感じです。

ーーその後ご自身で会社を起業されます。

起業することにあまり躊躇はありませんでした。エンジニアって自由に働いている人が多くて、4年働いて1年休むみたいな人って結構多いんです。それと同じ感覚だったから起業という「遊び」を1年間するくらいにしか考えていなかったですね。もし失敗してもその時はどこかの会社に入ろうっていう感じではありました。もちろん、今は遊びではなく全力で会社を経営していますが。

ーーとはいえ技術力が備わっていないとできないことでもあります。起業した後で変わったことはありますか?

そうですね、自分の選択におけるインパクトは変わりましたね。起業する前って1つの選択でその後の生活が大きく変わることは少なかったですけど、起業後はあのときのメールを返してなかったら詰んでいるなとか、この人とたまたま話してなかったら終わっているなとか、振り返ってゾッとすることが多いですね。

ーーメールしたりとか出会ったりとか。人との出会いが重要だと。

起業する前は人脈とか言っている人たちが胡散臭く思えましたけど、起業した後は完全に人脈重要だなって気づいた。人脈って言うから胡散臭いのかもしれませんね。要は人との繋がりなので。

今後、MatrixFlowが「目指すこと」とは

ーーMatrixFlowとして今後取り組んでいきたいことは何ですか?

最終的にやりたいことは、人類の差別を無くしたり、偏見を無くしたりしたいですね。そもそもなんでこういう問題があるのかというと、人類同士のコミュニケーションが圧倒的に足りていないからだと思うんですよ。

ではなぜ人類同士のコミュニケーションが足りてないのかというと、本来そこに割く時間というのを他のこと、例えば仕事とか睡眠とかに時間を割いているからだと思っていて。

今、私自身がAIに取り組んでいるのは将来的に労働自体の生産性をAIで高めて、ほとんどの人が働かなくていい世界を作っていきたいからなんです。

そういう意味ではビジネスって枠じゃなくて、「人類を労働から解放させた後の、今の国とかとは違う別のシステム、社会体系を構築したい」という願望がありますね。

今の国って割と労働ありきのシステムじゃないですか。私としては国をアップデートするよりも、国とは別の社会システムを作ったほうが速いのではないかと思っていますね。レガシーシステムをメンテし続けるよりも新しいシステムを作った方が良いものが生まれやすいというのはエンジニアリングから学んだ事です。

労働における生産性が上がるだけでかなり世の中が変わっていくんじゃないかと思っていて、その一環でMatrixFlowを広めていければと思います。

ーーこれからのAIについてどう考えていますか?

今後はロボティクスとAIが絡んでいくんじゃないかと思っています。そこで新たに問題になるのはロボットのハードウェアとしての側面。今は膨大なデータを用いて機械学習を行いますが、それをロボットにそのまま移し試行錯誤を繰り返させるとロボットは壊れてしまいます。

なので今後はロボットが壊れないように学習させる方法が必要になってくるんじゃないかと思っています。

私としてはそれがVR空間なんじゃないかと。VR空間上で機械学習を行い、仮想空間のロボットに学習させていく。そうして出来上がった機械学習モデルを現実世界のロボット本体に落としていくというような技術が必要になっていくのではと思います。実はMatrixFlowも今後はその方面に進んでいきたいと考えています。

ーーシミュレーション環境を作り出すことが鍵に?

ただそんなに簡単なことではなくて、VR空間上で現実を再現する必要があります。さらにいうとVR空間上でうまく学習しても現実のロボットがうまく反応しないってこともあり得ますよね。その辺の整備がまだまだだと思っているので、この分野にはかなり興味がありますね。

AIによって生み出される「新しい仕事」にどう取り組むか

“AIが人の仕事を奪うーー”

確かに、AIにはこれまで築き上げてきた仕事を奪う一面もある。しかしその一方で、AIによって生み出される仕事もある。

AIに使われるのか、それともAIを使うのか。その決断に迫られるのは「今」かもしれない。

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